本日、令和5年6月定例会が開催されるに当たり、今後4年間の市政運営に関する私の所信を申し述べ、市民ならびに市議会議員の皆様にご理解とご支援を賜りたいと思います。
先ずは、本市の発展と市民の幸福を念頭に活動をされている議員の皆様に、敬意と感謝の念を捧げたいと思います。
私は令和5年4月23日に執行されました周南市長選挙におきまして、市民の皆様の大きなご支持をいただき、2期目の重責を担わせていただくこととなりました。
時代が大きく変わりつつある今日、自治体経営には様々な困難が予測されますが、品格と誇りのある、愛する周南市の舵取りを、これからもしっかりと行ってまいる覚悟です。どうぞ引き続き、よろしくお願い申し上げます。
本年4月、国立社会保障・人口問題研究所から47年後となる2070年に、日本の総人口は現在の約1億2500万人から8700万人へと約3割減少し、全体の1割が外国人になるという将来推計人口が公表されました。これは2014年に日本創成会議が発表した「消滅可能性都市」のショックを遥かに超える激震となり、各方面に伝わったところです。
私はこれまで、人口減少を本市の抱える最大の問題と位置づけ、真正面から取り組んできました。たとえば、地域人材循環構造を確立するための旧徳山大学の公立化、地域の脱炭素・新エネルギーの推進で高い産業力を有する都市としての持続可能性の追求、未来世代の幸福を何よりも慮る地域づくりの推進、寄り添い伴走する子育て支援や施設整備など、人口減少問題の核心に近づくアプローチを続けてきました。
この度の将来推計人口の公表は、わが国の人口減少対策に、再検討を促しています。そのうえで「人口急減社会を前提とした地域づくり」の推進を強く示唆していると考えています。
本市の「全ての施策は人口減少対策につながる」という認識は、部局連携による施策の最大の効果と未来世代の幸福を基本軸とするものです。私は、将来推計人口の公表を踏まえて次の2点を付け加えて、施策展開を図っていきたいと考えています。
ひとつは「人口減少に抗う」という、「抗う」ことの意味の明確化です。私はこれまで、「抗う」という言葉を、人口減少率を抑制するという意味で用いてきましたが、人口を昭和のピーク時、あるいは合併時のレベルに「戻す」という意味ではないことを、改めて確認したいと思います。
さらに、人口が減るという社会現象はマイナス面だけではなく、これを契機として地域が変わる、変わらざるを得ないという側面にも注目するべきではないかと思っています。人口減少という危機感はこれまで出来なかったことが出来るような状況をつくり、地域が変わっていけるパワーを生むものでもあると考えています。
いまひとつは「人口」そのものに対する考えです。これまで「人口」は地域の力のバロメーターのように使用されてきました。
本来、人口は社会環境により変化するという特性のあるものです。これからの社会は、情報通信技術、AI、運輸交通などの進展が、雇用や起業、学びや生活スタイルなどに影響して、社会環境を大きく変化させることになります。定住者数を示す「人口」の意義も、今後は変わることが予想されます。
一例をあげると、これまで様々な場面において都市が選択される場合、「人口」は大きな選択の要素でした。人口減少社会ではこの要素は自然と薄らぎ、「持続可能性の追求」や「社会環境への適応性」を志向するまちの姿勢や実績が、重要な要素になると思われます。
私は、これからは人口減少問題に個別具体的に丁寧に対処しつつ、一方では、問題の繋がりや問題発生の根源となっている核心へのアプローチも緩めてはならないと考えています。
このアプローチがめざすところは、例えば、地域の医療・福祉・教育・子育て環境が整い、安心安全の暮らしやすさがあり、脱炭素化による生産基盤が整い、SDGsの推進で様々な取り組みが進むところにあります。
また、まちには多彩な学びの場が設けられ、デジタルやAI人材に恵まれた資質の高い労働力があり、充実した支援網でアントレプレナーが養成されて起業の場も次々に誕生するところにあります。
このアプローチは、これからのまちづくりの「新たな力」となり、未来が生まれるまちの形成につながるものと考えています。
幸いなことに本市には、こうした「新たな力」を発芽させる土壌が整いつつあり、市政は、それを次のレベルに誘導する本気度が求められていると思います。
私はこれまで首尾一貫して「全ての施策は人口減少対策につながる」と申し上げてきました。以下はそれに基づき、項目別に所信を申し述べます。
はじめに、子育て施策と人口減少対策の関係について申し上げます。
子ども関連の施策につきましては「こどもまんなか宣言」で、本市の考え方と具体的に指針5か条を公表し、HPに掲載、朝礼での唱和に取り組むなど全職員への周知徹底にも努めているところです。
子どもは地域の宝であり、大いなる可能性を秘めたかけがえのない存在です。子どもの最善の利益を第一に考え、子どもの自由と権利を守り、子どもを取り巻く環境の多様化、複雑化に十分配慮し、「こどもまんなか社会」の実現を人口減少対策の柱として取り組みます。
また、伴走型支援の研究をさらに進め、結婚・妊娠・出産・子育て・教育・進学・就職と切れ目なく、子どもや保護者の目線でこれを進化させていきます。
さらに、子どものいる世帯の経済的負担の緩和をめざして、例えばこども医療費、通学定期代、奨学金返還など、子どものライフステージに寄り添った支援に心を配りたいと思います。
子どもの笑顔は地域を元気にし、未来への希望です。子どもを産み育てたくなる上質なまちは、人口減少対策のはじめの一歩であると認識しています。
次に、文化と人口減少対策の関係について申し上げます。
文化庁の資料では、文化とは「人間が自然とのかかわりや風土の中で生まれ育ち身に付けていく立ち居振る舞いや,衣食住をはじめとした暮らし,生活様式,価値観など,人間と人間の生活にかかわることの総体」とされています。私はそのうえで、文化は私たちの後ろに在るものだけではなく、今を暮らす私たちの姿や日常の考えや振る舞いが、やがてこのまちの文化になっていくものだと考えています。
そこで、私は、市民の誰もが地域文化の創作者になるという考えを、まちづくりの支柱として取り入れていきたいと思います。
例えば人口減少社会では担い手不足から、これまで地域で親しまれてきた祭りや行事、地域に根差した文化活動等を記録し、維持保存し、継承していくことが喫緊の課題となっています。
その一方で、健康で文化的な生活の質の向上がみられ、多様な個人の価値観に基づいて個性ある余暇活動が活発になり、様々な習い事やサークル活動、交流や学習活動などが盛んに行われるようになりました。それはライフスタイルの成熟化の表れであると同時に、地域文化の芽が着々と育まれていることの証しでもあると考えています。
地域文化を大切にすることとは、継承と芽生え・育みを両面から支えることでもあります。文化につながる活動の拠点やパフォーマンス・交流の場となる適切な施設整備を行い、文化の薫る上質で潤いのあるまちづくりの推進は、人口減少対策に極めて甚大な価値があることと思います。
これからの時代は、市民ひとりひとりの磨かれた個性の表現が、地域文化を芽生えさせていく時代です。その集積が新たな地域文化を形作り、まちの魅力となり、シビックプライドを醸成していくものと考えています。
こうした文化の土壌づくりをしっかり行っていくことが、人口減少対策には無くてはならないものと思います。
続いて、周南公立大学と人口減少対策の関係について申し上げます。
周南公立大学は「地域人材循環構造の確立」をめざして開学したものであり、大学は「地域の成長エンジンとなる」というミッションのもとで「知の拠点」としての存在意義をパーパスに掲げているところです。
人口減少社会の到来は、地域の高等教育機関に、一層の産官学の連携、リカレント教育やリスキリングの支援、DX人材やアントレプレナーの養成、起業や事業承継のサポートなど人口減少対策の核心につながる多様な分野での役割を求めています。
周南公立大学はこうした役割を担う大学です。本市の人口減少対策の大きな強みのひとつは、知的アドバイスや専門的役割を担う自前の「知の拠点」を抱えていることです。これからは、市民・企業・市役所という「信頼のトライアングル」をリードする存在として、ますます貢献できるものと考えます。
私は、大学にまちづくりの期待をするだけではなく、全国から集う学生たちをまち全体で育てていかなければならないとも考えています。新学部学科の開設により、約二千人もの大きな「若者の塊」の出現は、人口増と地域経済に貢献するだけではありません。彼らのクリエイティブな発想や考え、アグレッシブな振る舞いや活動は、本市の新たな文化の芽となり育むべき対象となるものです。
私たちは学生を様々な場面で迎え入れ、私たちの暮らしの多様性や価値観に触れてもらい、学びを共有しながら、資質の高い社会人として巣立つことができるように、応援していくことが大切ではないかと考えます。
私たちのまちの私たちの大学として、市民と学生の信頼に満ちた関係をしっかり築いていきたいと思っています。こうした姿勢が若者に慕われる風土の醸成となり、人口減少対策に確実につながると考えています。
次に、産業力の進化と人口減少対策の関係について申し上げます。
子どもを産み育てやすい環境を整えることと、地域に多様な雇用の場が確保されることは、人口減少対策の両輪と考えています。これからの地域内での雇用環境は、地域の生産力の発展と事業承継や起業・創業の進展にかかっているともいわれています。
本市の強みは、県内屈指の生産力とコンビナートをはじめとする企業・事業所の集積にあり、この企業群が積極的にカーボンニュートラルに向けた経営に取り組んでいるところにあります。
企業・事業所の存在なくして地域内雇用は確保されません。地域内雇用なくして人口減少対策は有り得ません。私は、あらゆる知恵と協力を得ながら、地域の企業が厳しい競争に打ち勝つための連携や産業基盤の整備を推進します。
また、事業承継のサポートを行いつつ、アントレプレナーの養成や起業支援を拡充して、新たな雇用の場の確保に努めてまいります。
農林水産業の振興においても、デジタル・AI技術の導入による生産性の向上や脱炭素化への取り組みの推進をめざします。
これからの時代は、脱炭素、SDGs、デジタル・AI化、そしてダイバーシティなどでまちの積極性が求められ、そのことが地域の産業力を支え、雇用の場の創出となり、人口減少対策に直結すると考えています。
次に、デジタル・AIの進展と人口減少対策について申し上げます。
人口減少社会における市役所は職員の絶対数が減るなかで、従来の市域を維持したうえで、社会資本の充実や住民の安心安全と利便性の確保に加え、新たな行政ニーズにも対応していかなければなりません。
この厳しい状況で頼りとなる力は、デジタルやAIという人間の知恵が生み出した科学技術にあると思います。これは、人力とは比較にならない速さと内容で物事を処理して予見まで行う能力を持ち、今後さらに進化するといわれています。
私は、これまでのアナログ的な業務の進め方の良いところを伸ばしつつ、この科学技術を積極的に採用することで、行政サービスの持続可能性を追求し、行政コストの削減にもつなげていきたいと考えています。
デジタル・AIの導入の加速は、中山間地域や周辺市街地における地域交通や物流、そしてオンライン診療などの地域医療に新たな可能性を開きます。また、「書かない窓口」をはじめとするスマートで効率の良い行政サービスの進展や、安心安全のための様々な情報の提供と管理が可能となり、幅広く市民益に通じることと思います。
デジタルデバイドへの対策を支所、市民センター単位で地域の実情に合わせて行っていくこと、デジタル・AIの導入を加速することの意義をしっかり説明して市民の理解を高めることが必要です。
幼少時からコンピュターや携帯電話が生活とともにある世代が、社会を支える時代となっています。人口減少社会を乗り越える有効なツールとしてデジタル化やAI化をとらえ、世代を超えた理解のもとで加速していきたいと考えます。
次に、人口減少対策をまちづくりにつなげる視点について申し上げます。
人口減少社会を前提としたまちづくりは、これまでの考え方にとらわれることなく、「まちの持続可能性を第一に、地域産業の成長と市民生活の向上」を図ることが目的となってくると考えています。
私たちは、脱炭素やSDGs、ダイバーシティやAIなどにより大きく変化していくことを共通認識として、今後は最新の情報を共有しながら、さらに理解を深めていかなければなりません。
また、既存の公共インフラをまちづくりに生かしていくという視点も大変重要になってきます。
例えば、まちの魅力の創出という視点からは、今ある美しい樹木の並木道に、ベンチや休憩所、交流の場などを整えることで「文化の薫るまち歩きのゾーン」を形成することができます。
さらに、安心安全なまちづくりの視点からは、新南陽・菊川・夜市・戸田・湯野地区の中心的な病院として新南陽市民病院を位置づけ、将来の新興感染症などにも備える機能の拡充は大変重要であると考えています。
そして、アグレッシブなまちづくりという視点からは、防災道の駅の選定を機に道の駅ソレーネ周南を、家族が自然の中で楽しく過ごせ、健康づくりの場にもなるような新たな機能を拡充したいと思います。
こうした様々な視点を打ち出しながら、これまでにとらわれず、人口減少対策としての有効性を追求していきたいと思います。
人口急減社会の到来は多方面でこれまでの価値観を大きく揺るがし、地域に「変わること」を求めています。
この「変わること」を求める大きなエネルギーは、いわば「時代の力」であり、地域には「変わること」で未来が開けることを示唆していると思います。私は、いかに「変わることができるか」が、これからの自治体の将来を決定付けるものだと考えています。
私は人口減少を単に地域の萎縮、地域力の減退というマイナスの局面だけで捉えるのではなく、むしろ、これを機に昭和・平成の時代に作られた様々な事柄についても、良いところをさらに伸ばし、正すところは正して、思い切って「変わること」ができる好機というとらえ方をしています。
この度の将来推計人口の公表を待つまでもなく、本市の人口減少は危機的状況にあり、一刻たりとも猶予は許されません。この切迫した状況は、私たちに見識と判断力、そして果敢な行動を求めていると思います。
市民と企業と市役所のトライアングルは、この時代認識に立って「信頼」による結びつきを一層強めていく必要があります。
また、周南公立大学の「知の拠点」の牽引力、市内各企業が掲げられているパーパス経営の力量、そして市民の皆様の品格と理知の力に大変期待しているところです。
私はこれからも、あらゆる方々からあらゆる知恵と情報とご協力を頂きながら、「2050年を乗り越えられる周南市になる」としたパーパスを忠実に実践して、未来の市民益に必ずつなげてまいる覚悟です。
市民の皆様ならびに議員各位の賢明なるご判断とご理解ご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
令和5年6月23日
周南市長 藤井 律子