私たちの先祖は、趣のある和風月名を残してくれました。
1月はお正月に集い仲睦まじくするから睦月、2月は一層の寒さに衣を重ね着するから如月、3月は暖かくなり弥(いよいよ)生(な)る(草木が芽吹き始める)ので弥生と名付けられました。
平安のころから「弥生の花」は、人々を悩ませるものになりました。
人々はさくらの芽吹きを喜び、咲くほどに心を打たれ、花の舞いに陶酔し、散り終えてもなおその余韻に浸りました。
「さくらは大丈夫だろうか」
寒冷風雨のたびに案じる心は、人々の優しさや慈しみを培ってきたようにさえ思われます。
♬さくら さくら
やよいの空は 見わたす限り
かすみか雲か 匂いぞ出ずる
いざや いざや 見にゆかん
♬さくら さくら 野山も里も 見わたす限り
かすみか雲か 朝日に匂う さくら さくら 花ざかり
古謡『さくらさくら』
私はこの歌で、さくらの花に匂いがあることを知りました。野辺の美しさは彩りだけではなく春風の甘い香りにもあると、幼心を動かされた覚えがあります。
以来、四季の香りを意識するようになりました。
やがて、想い出にも香りがあり、セピア色の日々に香りが加わると、いっそう色鮮やかに蘇ることも知りました。