日本は四季の美しい国といわれ、折々の伝統行事や人々の暮らしは海外からの憧れを誘っています。思えば私たちの先祖は、春夏秋冬をそれぞれ6つの節気に分け、さらにその中を3つの候に分けて、合計72もの季節を創り上げ、その兆しと移ろいを楽しんできました。
秋の野に 咲きたる花を数ふれば 七種の花
萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花
(山上憶良 万葉集8巻)
「春の七草」が七草粥の素材として選ばれたのに比べ、「秋の七草」は眺めて愛でる野原の草花にすぎません。身近な美を発見して味わう万葉人の感性の豊かさに驚かされます。
一方、自然界のリアルな美しさは、朝夕の冷気が為す技ではないかと長い間思ってきました。空が澄み、月が澄み、山が澄むのは、冷気のもつ透明感が形あるものを鮮やかに際立たせるからなのだと。さらにこの透明感は、人々の季節に寄り添う姿や五穀豊穣に感謝する精神までをも「秋の美」として磨き上げてきたように思います。
今や「ニッポンの秋」は世界の憧憬の的となりました。改めて美しい国土に住む幸せに感謝しつつ、今年もまた、透明感のある秋の日々を待ちわびています。